手術手技:焼く

切る(切開)の所で述べましたが、キズをきれいにするためには出来るだけ周辺の組織を痛めないことが必要です。一方、この「焼く」という操作も手術にとって無くてはならない操作ですが、熱の作用を利用するため、メスで切るような局所に限局した作用は期待できません。では、何のために「焼く」必要があるのかと言いますと、それは止血のためです。手術の中で止血は「切る」事と同様無くてはならない操作の一つです。

人間の体で血の通っていない部分というのはごくわずかに過ぎないため、切れば必ず出血します。正確無比な手術を行うためには、この出血をコントロールしながら操作を進めてゆくことが必須になります。太い血管の止血には「しばる」操作が必要ですが、細かい出血のコントロールにはタンパクの熱変性を利用した「焼く」操作が不可欠です。そしてよりよい治癒を期待するならば、この操作は極力ピンポイント操作であるべきで、そのために高性能な電気凝固装置が必要になります。当院では、サージトロンを用いることによって必要最小限度の組織凝固による止血を行う事を心がけております。

よく言われる「レーザーでほくろを焼いて取る」という治療法は、レーザーの熱で組織を焼灼蒸散させることによります。従ってレーザーを当てた後には当然ですが小さな穴が開きます。そして、治癒後には小さなクレーターが形成されるため、跡形もなくとれると考えるのは間違いと言えます。この場合、生じたクレーターが元のホクロよりも小さくて目立たない事が重要ですので、大きいホクロではレーザーで取った跡のクレーターがかえって目立つという結果になりかねません。ですからこのような場合は紡錘形に切除して縫合することをお勧めします。

一方、「焼く」操作の特殊型にサージトロン独特の“FULGURATEモード”もあります。

FULGURATEモード

Fulgurateとはラジオ波による高周波ラジオ波メス装置・サージトロンの出力モードの一つであり、これを皮膚に作用させた場合、皮膚表面をきわめて薄く剥ぐ効果が生じます。皮膚表面の表皮と呼ばれる部分から発生する良性腫瘍の一つに脂漏性角化症と呼ばれるものがあります。この腫瘍にFulgurateモードを作用させると、腫瘍部分だけを薄く剥がすことにより除去することが可能になります。

実際に手術を行いますと腫瘍を取った部分は赤く薄皮が剥けた状態になり、洗顔をするとしみます。この状態は10日ほど続きますので、ていねいに洗顔をしていただいた後に、お出しした軟膏を塗って保護をお願いいたします。
遅くても2週間で傷は治りますので、その後は日焼けを避けるようにしてください。腫瘍を取った部分は、最初は赤く、赤みが引くと色素沈着を起こしてきます。このとき日焼けをすると、色素沈着が強まりますので日焼け止めクリームなどで保護をお願いいたします。