手術以外の治療法とは
皮膚疾患の場合
皮膚の病気の最も一般的な治療法は軟膏療法です。皮膚科で用いる軟膏の大部分はステロイドと呼ばれる副腎皮質ホルモンの外用薬と、抗真菌薬と呼ばれる水虫などのカビに対するものと、抗菌薬と呼ばれる抗生物質の軟膏です。その他に角質の過剰な増加を抑える軟膏や、過剰な免疫をコントロールする軟膏などがありますが、最も一般的に使われているのは何と言ってもステロイド軟膏だと思います。
ステロイドとお聞きになると多少の抵抗感をもたれる方もいらっしゃると思いますが、炎症を抑える効果は確実ですので、疾患の重症度と部位に応じて各種の強さのステロイドを適切に使い分けることにより、安全に治療を行うことが出来ます。
ただし、効果を確認しながら適切に使うのではなく、ただ漫然と使い続けることは治療にならないばかりか、場合によっては副作用も出てしまう結果になることがあります。さらに湿疹に見えて実は湿疹ではなく表皮の癌である場合もありますので注意が必要でしょう。
軟膏だけでは効果が芳しくない場合、あるいはアレルギー疾患のように軟膏療法では効果が期待できない場合、さらには軟膏では治癒が期待できない細菌や真菌による感染症の場合も内服治療が行われます。
さらに手術以外の皮膚科の治療としては光線療法があげられますが、こちらは別項にてご説明いたします。
手の疾患の場合
治療法としての「安静」は全身の疾患であれ、局所の疾患であれ基本中の基本と言えるでしょう。例えば風邪をひいて熱が出た場合、わざわざ運動をする人は少ないと思います。風邪ウイルスとの戦いのために体温を上げ、そこに体力を集中的に使うために体が自然に安静臥床を求めます。
骨折の場合もそうです。何しろ骨が折れるととてつもなく痛いものです。それは骨格が人体にとって極めて重要なものである事を表しています。もし痛くなければ、動かしてしまい、骨折をさらに悪化させるに違いありません。痛いからこそ安静にしようとする気になり、その安静が治癒につながります。
このように、痛みというのは人体にとって合理性のあるサインと言えましょう。話は飛びましたが、手の疾患の場合、「安静」が必要なものの第一として、先の骨折がある事は言うまでもありません。したがって、手術以外の治療法の第一はこの骨折に対する非観血的整復術、つまり外からズレを治してギプスによる固定を行う方法があげられると思います。
さらに、安静が必要なものとしては関節炎が考えられます。特に変形性関節症と呼ばれる、関節の軟骨がすり減り骨が変形する病気の場合、安静は有効な治療法となります。この変形性関節症は主に指の「第一関節」と呼ばれている一番先端の関節(DIP関節)や、親指の付け根の関節(CM関節)に起こる事が多く。DIP関節の場合は、骨変形の結果関節が盛り上がったように見えるためへバーデン結節と呼ばれます。変形性関節症で痛みが強く、赤みや熱感がある場合は、消炎鎮痛剤と局所の安静が必要になりますが、日常生活の中で指を動かさない事はほぼ不可能に近く安静にする事は困難です。
一方、母指のCM関節の変形性関節症の場合、装具を用いる事により局所を安静にする事が可能になります。これは、サム・スパイカキャストと呼ばれるもので、熱可塑性プラスチックを用いて、患者さんごとに型取りをして作ります。このキャストを装着しますと、親指は最も先の関節以外は固定されるため変形性関節症によって痛みを起こしている部分の安静を保つ事が可能になります。親指以外の4本の指は自由に動かす事が出来ますので、キャストを装着したままで、かなりの作業を行う事が出来ます。このキャストは着脱式になっていますので外して入浴する事が可能です。母指CM関節症につきましては、このキャストの装着によって痛みが軽減せず、日常生活に支障が生ずる場合、手術が考慮されます。
この他に安静が奏功するものとして、一部のTFCC損傷があげられます。TFCCとは手首の小指側で腕の骨と手の骨の間に存在する軟骨性の構造で、ケガ等で損傷されると手首の小指側の痛みを起こします。この疾患は手首の安静が功を奏する事があるため、サポーターなどを用いて手関節を固定します。この他に手関節の小指側の痛みを起こす疾患として尺側手根伸筋の腱鞘炎等がありますがこの場合も同様のサポーターを用いての安静治療から始めます。
腱鞘炎の話が出ましたので、腱鞘炎の保存療法について見てまいりましょう。実際に手の腱鞘炎と呼ばれる疾患は、指や手首の曲げ伸ばしを行う腱がある部分にはどこでも起こる可能性があります。中でもポピュラーなのが手首の親指側に起こるドケルバン腱鞘炎と各指に起こるばね指ではないかと思います。これらの腱鞘炎は副腎皮質ステロイドホルモンと局所麻酔薬の混合液の注射によって症状が軽快する事が多いです。ただ、この改善も一時である場合も多く、根本的治療のためには手術が選択されることも少なくありません。
最後になりましたが、内服治療も忘れてはなりません。発赤や熱発がみられる「炎症」と呼ばれる状態を効率的に改善させる薬剤が抗炎症剤であり、先ほどの副腎皮質ステロイドホルモンには強力な抗炎症効果があります。一方皆さんが普段痛み止めと称して服用されている薬はNSAIDs(=非ステロイド系の消炎鎮痛剤)と総称されます。痛みを伴う手の疾患においてはこのNSAIDsの適切な服用が急性期の炎症を押さえ、症状を軽減させる事に役立ちます。一方、これらNSAIDsは胃を荒らす作用が強いため、胃薬との併用が必要になってまいります。