日常のケガ
- カッターで指を切ってしまった
- 指の骨が折れたかもしれない
- 何かの拍子に人差し指が途中で伸びなくなってしまった
- 爪にトゲが刺さってしまった
- 指先をスライサーで削ってしまった
- 転んで擦りむいた
- 犬に指を噛まれた
- やけどをした
1.カッターで指を切ってしまった
指の切り傷では、深さや場所によって処置の方法がずいぶん違ってきます。と言いますのも、指には骨や関節を始めとして、曲げるための屈筋腱、指を伸ばすための伸筋腱がそれぞれ指の腹側と背中側にあります。これらの腱が切れてしまえば指の動きは障害されます(屈筋腱損傷・伸筋腱損傷)。
これらの腱の他に指には知覚神経と指動脈がそれぞれ2本ずつあり、神経と動脈は各々一対になり、主に指の腹側の屈筋腱の両わきを走行しています。つまり、深い切り傷がこれらに達すると神経損傷や動脈損傷が起こりますので、マイクロサージャリーによる血管吻合や神経縫合が必要になる事があります。
つまり、指の切り傷を見た場合はこれらの損傷があるかないかを確認し、それがない事を確認して初めて単純な切り傷と考えて皮膚縫合を行います。
2.指の骨が折れたかもしれない
人体の他の臓器と同じように、骨にもかなりの血流があり、さらに一部の骨では血液の元になる細胞も作られております。もしその骨折が起こりますと、骨の血管も破れますので当然出血を起こします。つまり、骨折の場合は痛みと同時に出血(多くの場合内出血になります)が見られます。平たく言いますとケガをした後に、強い痛みがあり、内出血と腫れが見られたら骨折を疑って見る必要があるでしょう。
手の骨は形の異なった多くの骨によって構成されているため、骨折の種類も様々ですし、治療法もそれらに応じて色々な方法があります。そしてその治療法は大きく分けると整復後にギプス固定を行う非観血的整復固定術と、手術によって固定を行う観血的整復固定術があります。
3.何かの拍子に人差し指が途中で伸びなくなってしまった
指の付け根の関節をしっかり伸ばすことが出来ない状態です。そのほかの関節は伸ばしたり曲げたりすることが出来ます。また、付け根の関節も曲げることは可能です。これはMP関節ロッキングという状態です。
この他にも指がカクッと伸びなくなってしまう状態にばね指があります。この場合指指の各関節は皆曲がった状態で伸びなくなってしまい、何かの拍子にカクッと戻ります。 ばね指の場合人差し指だけでなく他の指でも起こります。
4.爪にトゲが刺さってしまった
ご存知のように爪はとても敏感な場所です。ですから爪の下にトゲが刺さったまま知らずにいる事は滅多にないと思います。きっと、急いで刺を抜いて消毒すると思いますが、場合によってはトゲのかけらが残ってしまう事があります。そのような場合は完全に除去する必要があります。
一般に異物が入ったままにしておくと、その場所に細菌感染、つまり赤くはれて膿を持つ事がよくあります。このような指先に膿を持つ場合はその場所によって、爪周囲炎、あるいはひょう疽と呼ばれます。このような状態を放っておくと、化膿性関節炎や化膿性腱鞘炎という重篤な感染症に至る事がありますので注意が必要です。
5.指先をスライサーで削ってしまった
スライサーで指先を切ってしまった経験をお持ちの方は多いと思います。この場合単純な切り傷から、皮膚や皮下脂肪そのものがそげ落ちてしまうキズまで程度も様々です。
指先のケガは高度になると指尖切断と言ってもよい状態になり、再接着術や複合組織移植術と呼ばれる方法での治療が必要になってまいります。しかし一般的スライサーではそこまでひどくなる事は多くありません。
結論から申し上げますと指先の皮膚が無くなって皮下脂肪がかなり露出したとしても適切な保存療法を行う事によりかなりきれいに治ります。しかし受傷直後はかなり出血が見られ、止まりにくいため、きれいなガーゼなどで圧迫止血をしながら御来院ください。止血の後にキズの治癒過程に応じた処置を行います。
6.転んで擦りむいた
子供の頃、転んで擦りむいた記憶はどなたでもお有りでしょう。そんな場合、たいていのキズは1、2週間で治ってしまいます。しかし、その傷がやや深く小砂利や泥で汚染されている場合は気をつけなければなりません。このような汚染された切り傷を放っておくと、キズの感染を起こす確率が高くなります。
さらに、砂や泥で汚れた傷がそのまま治った場合はキズの中に砂や泥が取り込まれた状態になり、入れ墨のように青黒くなってしまいます。これを外傷性の入れ墨といい、かなり目立つ結果となってしまいます。そのため汚染された擦り傷の場合は必ず局所麻酔下にキズのブラッシングを行って異物を除去しなければなりません。
7.犬に指を噛まれた
犬や猫に指を噛まれた場合は注意が必要です。猫の場合「ネコ引っかき病」と呼ばれる特別な感染症がありますが、ここでは一般にヒトを含めて動物に噛まれた場合について考えてゆきます。
動物の口の中には各種の細菌が存在しています。そのため咬み傷からは必ず細菌が体内に侵入してしまいます。体内に侵入した細菌は、体の免疫力によって排除されますが、その免疫力が弱い場合や、糖尿病のように細菌感染に弱い疾患にかかられている方では、咬み傷は重症化してしまいます。
さらにかまれた場所も問題になります。手の咬み傷の場合、動物の牙が腱や靭帯、さらには関節軟骨などに達してしまうとそれぞれの組織が感染を起こし、化膿性腱鞘炎、化膿性関節炎などの重篤な手の疾患を起こす可能性が高くなります。
そのため、動物に噛まれた場合、特に手や指の咬傷の場合は軽く考えずに必ず医療機関を受診する事をお勧めします。
8.やけどをした
やけどをした場合はまず冷却、ということはほとんどの方が実行されていると思います。その冷却時間ですが、一般的には受傷後30分以内でよいとされています。ただし、赤ちゃんなどのように体が小さい場合は局所の冷却のつもりが思わぬ低体温を起こしてしまう事もあるため注意が必要でしょう。
また、やけどの治療で重要な事の一つに面積があります。熱傷の面積がある程度以上の場合は「救命センター」での治療が原則になる事も加筆しておきます。
さて、やけどはその深さによって3段階に分かれます。そのうち、I度熱傷とはいわば軽い日焼けのようなもので、赤くなるだけで皮が剥ける事はありません。赤みも自然に引いて治ります。次のII度熱傷では水疱が形成される事が多く、水疱が破れると皮が剥けたような状態になります。
このⅡ度熱傷はさらに、深さによって「浅いII度熱傷」と「深いII度熱傷」に分類されますが、受傷時点でこの二つを区別する事は簡単ではありません。ただ、結果的に2週間で治った場合は浅いII度、2週間以上かかった場合は深いII度の熱傷と考えてよいようです。一般論ですが、2週間以内に治った場合はやけどの跡は比較的きれいになりますが、それ以上かかった場合は瘢痕形成などを起こしやすくなってまいります。
最後のⅢ度熱傷の場合は、キズはなめし革のようになります。これは皮膚が全て熱傷によって熱変成を起こしてしまった事を意味します。II度熱傷では自然に皮膚が上がってくる事が期待されますが、III度熱傷の場合は自然に任せておくと不都合を生じる事が多く、皮膚移植術などの手術加療が必要になります。
いずれにしましても、やけどの程度に応じた的確な治療が必要になりますので受診される事をお勧めいたします。