傷跡(きずあと)の話(5)

「瘢痕拘縮」について

瘢痕の長軸方向への引っ張りの力が加わると。肥厚性瘢痕になりやすいことは先述しましたが、さらにやっかいなことに肥厚性瘢痕自体に収縮する性質があります。(線上の瘢痕でなく面状の瘢痕の場合でも瘢痕の面積が小さくなるように収縮します。)

瘢痕拘縮の困る点

もし、関節を長軸方向にまたぐ傷跡に瘢痕拘縮が起こると関節運動に障害が生じます。特に、関節の曲がる方に長軸方向の瘢痕がある場合に顕著で、瘢痕拘縮の結果、関節をしっかりと伸ばすことができなくなってしまいます。このような瘢痕拘縮を放っておくと、次第に関節自体の動きも悪くなってしまいます。

また、成長期のお子さんの瘢痕拘縮は、瘢痕自体の収縮と成長に伴う相対的な収縮により、重篤な変形をもたらすことがあります。

さらに、瘢痕拘縮が顔面、特に目のまわりや、口のまわりなどに起こると著しい醜形を起こすことがあります。

瘢痕拘縮の予防

瘢痕拘縮を起こさないためには、何よりもキズの方向に注意する必要があります。前回も書きましたが、できるだけシワの方向に一致するように切開することが重要です。一方、必ずしもそれができない場合、切開線の置き方(切り方)の工夫が必要になります。

これを手の手術に当てはめて考えてみます。たとえば指の屈筋腱(曲げる腱)の手術を行う場合、一番簡単な切開法は指の腹のど真ん中を縦に切ることです。しかし、今までブログをお読みいただいた方にはすぐにおわかりのことと思いかすが、傷跡の瘢痕拘縮により指を伸ばすことができなくなってしまいます

手指手術時の切開の仕方

瘢痕拘縮が起こりにくく、たとえ多少の拘縮が起こっても関節の運動に悪影響を及ぼさない理想の切り方は、長軸方向に対して直角であることは以前にも書きました。でもそれでは術野の展開が思うようにゆきません。

そこで考え出されたのが、ジグザグ切開です。これにより、瘢痕拘縮を最小限にすると同時に広い術野を確保することができるため、手の外科領域で多用されています。

瘢痕拘縮形成術

一方、瘢痕拘縮を起こしてしまった傷跡に対して、拘縮を解除し、関節ならば動きを、顔ならば引きつれによる醜形を改善させる手術を「瘢痕拘縮形成術」といいます。

この手術の基本的は、先述したことと共通しますが、直線の傷跡をジグザグにする事に他なりません。そして、そこで使われる特殊な縫合法がZ形成術あるいはW形成術と呼ばれるものです。

これについてはまた別機会にお話ししますが、このZ形成術あるいはW形成術を自在に使いこなすということが形成外科医の一つの大きなテーマとなっています。


今日の一枚


15.4.10