傷跡(きずあと)の話(2)

それでは今回は前回の続きです。瘢痕組織が主にコラーゲンの繊維でできていることは前回書きました。しかし、それ以外の汗腺や皮脂腺等の正常な真皮の構成要素がないために、表面の質感の違いが起こり、結果として傷跡が残ることも先述いたしました。

一方、瘢痕には未成熟のものと、成熟したものがあることも重要なポイントですので、まずそのことについて書いてみます。

未成熟な瘢痕とは

たとえば、腕の切り傷を縫合したとします。約1週間で糸を抜いた直後はキズの合わさり目しか見えないことが普通です。ところが時間がたつにつれて、この合わさり目の部分は次第に赤く広がり、堅く赤い「ミミズ腫れ」のような状態になってきます。これが未成熟な瘢痕です。赤いと言うことは毛細血管が豊富だという事です。
このような未熟な瘢痕は、通常時間とともに徐々に赤みが減少し、盛り上がりもとれ白く柔らかく平らになっていきます。このような瘢痕を「成熟した瘢痕」と言います。一般にキズができてから瘢痕が成熟するまでは3ヶ月から半年程かかります。

目立たないキズとは

キズを目立たないものにするための第一の要点は隠すことです。どのように隠すかと言いますと自然なシワの中に隠します。シワがはっきりしない場合は、皮膚を寄せてシワを作り、そのシワの方向と平行な傷跡であることが、目立たなくなるための条件です。
一方、傷跡そのものも目立たなくする必要があります。そのためには、正常皮膚と質感の異なる白く成熟した瘢痕の幅を極力細くする必要があります。言い換えれば、ミミズ腫れを極力抑えると言うことになります。ミミズ腫れの幅が狭ければ成熟した瘢痕の幅も狭くなります。
この瘢痕の幅は、キズのできる場所によって変わってきます。丁寧に切開し縫合した場合の顔の傷は幅広くなりにくい傾向があり、体のほかの部位の傷跡に比べて目立ちにくいキズ跡にすることが可能です。反対に特に膝頭にキズなどは、キズの幅は最終的にかなり広くなってしまいます。
このようなことが起こる最大の原因は瘢痕への刺激にあります。

瘢痕への刺激

実際、瘢痕にかかる刺激の大部分は引っ張りによる物理的な刺激です。皮膚には常に重力がかかっているため、キズができればそれだけでキズに対する引っ張りの力がかかります。さらに筋肉の収縮や関節の運動によりキズにかかる力は増加します。その結果、瘢痕内のコラーゲンと血管が増生され、ミミズ腫れが生じます。
なかでも、関節を長軸方向にまたぐキズの場合、関節の運動に伴って瘢痕に強い引っ張りの力が作用することになります。このように瘢痕への物理的刺激が強い場合、瘢痕内部のコラーゲン増生と血管新生がさらに加速され、ミミズ腫れはどんどん大きくなります。そして、キズの両側の正常な皮膚を押し出すように幅が広がり、半年ほど経過しても盛り上がりがとれず赤いままで、かゆみや痛みを伴います。
このような瘢痕を「肥厚性瘢痕」と言います。

次回は肥厚性瘢痕について解説します。


今日の一枚


15.3.18b