傷跡(きずあと)の話(1)

手術の後、「傷跡は殘りますか?」と聞かれることはよくあります。
少なくとも皮膚をメスで切ったり、レーザーで焼いたりすれば傷跡は必ず残るものなのです。
ですから先ほどの質問には必ず「傷跡は残ります」とお答えしています。医学は科学ですから、科学的事実はきちっとお伝えすべきものだとは考えています。
そうは言いましても、患者さんは科学的事実だけを聞きたくて質問されたのでしょうか。
おそらく、本当にお聞きになりたいことは「目立つような傷跡が残りますか?」とということではないかと思います。
ですから今回は目立つ傷と目立たない傷について考えてみたいと思います。
その前にそもそも傷跡とはとはいったい何なんでしょうか?

組織の再生

皆さんは、トカゲのしっぽを切るとまた生えてくるという話しをご存じだと思います。
このように失われた組織が元通りになることを「再生」言います。人間の場合再生が可能な組織は多くはありませんが、その一つが表皮です。

表皮とは

表皮というのは皮膚の一番表面にあり、表皮細胞が集まってできています。厚さは約0.2mmといわれています。
この表皮細胞は再生を繰り返し、積み重なりながら角層となって皮膚の表面を覆います。そして最終的には垢となって脱落します。この表皮細胞のターンオーバー(代謝回転)についてはまた別の機会にお話しします。
この表皮の下層に広がって皮膚の大部分を構成するのが真皮です。

真皮とは

革の財布をお持ちの型は多いと思いますが、これは動物の真皮と利用したものです。
真皮層はコラーゲンと呼ばれる線維と神経や血管、さらに汗腺や皮脂腺や毛包、さらに各種の細胞でできており、まあ一種の臓器、それも人体最大の臓器と言っても過言でないかもしれません。 この真皮は傷がついても再生はしません。その代わり、人体のほかの臓器もそうであるように「瘢痕治癒」という治り方をします。

瘢痕とは

瘢痕とは、一言で言いますとコラーゲン繊維の塊です。真皮に傷つくとそのキズを埋めるようにコラーゲンの増殖が起こります。本来真皮はコラーゲンのほかにいろいろな構成要素がありますが、瘢痕はほとんどがコラーゲンの繊維です。そのため一様で硬い組織になります。
皮膚には本来毛穴や汗腺、そのほか自然のしわなどがあるため、光を乱反射しつや消しになっています。一方、瘢痕ははこのような細かい構造がないのでツルッとして光の反射率が正常組織とは違うため、簡単に見分けることができてしまいます。
つまり、傷跡は残ってしまうのです。

この残ってしまう傷跡をどうしたら目立たなくすることができるのかというのが形成外科の一つの課題です。次回はそのことについて書いてみたいと思います。


今日の一枚


15.3.10b