傷跡(きずあと)の話(3)
肥厚性瘢痕
キズの両側の正常な皮膚を押し出すように幅が広がってゆき、半年ほど経過しても盛り上がりがとれず赤いままで、かゆみや痛みを伴う瘢痕を肥厚性瘢痕と言うことを前回ご説明いたしました。今回はこの肥厚性瘢痕と、それによく似た「ケロイド」について解説します。
どうして肥厚性瘢痕になるの?
肥厚性瘢痕ができる理由は、形成された瘢痕に力がかかることによります。瘢痕に引っ張りの、刺激が加わると、生体の反応として、さらにコラーゲンの増加が起こり、幅が広がり盛り上がってきます。力の加わり方は大きく分けると直線と平行方向ににかかる場合と垂直方向にかかる場合があります。いずれの場合も瘢痕内のコラーゲン増殖の刺激になりますが、特に瘢痕の長軸方向への引っ張り刺激が強い影響を及ぼします。
そのため、キズの長軸方向に力が加わる場合特に肥厚性瘢痕になりやすいと考えていただいてよいと思います。
ケロイド
ケロイドも肥厚性瘢痕によく似ています。ただ、ケロイドの場合元のキズが小さいにもかかわらず周辺の皮膚に広がるように盛り上がってゆきます。つまり、肥厚性瘢痕がある程度元のキズの大きさを反映している一方、ケロイドは元のキズよりも何倍も大きく広がってゆきます。
そしてそのようなケロイドのよくできる場所として、胸や、肩などがあります。またピアスの穴から生じる「ピアスケロイド」も有名です。
ケロイドについては別の機会に解説します。
肥厚性瘢痕を防ぐには
傷跡を目立たなくするためにはどうしたらよいかということから始まり、肥厚性瘢痕まで解説しましたが、肥厚性瘢痕の予防法と傷跡をきれいにする方法は共通しています。いずれの場合も、キズの方向(手術時の切開線の置き方)とキズの縫い方が重要な要素になります。
肥厚性瘢痕を起こさない切り方
シワの方向に一致させたキズが一番目立たなくなります。関節でしたら長軸方向に平行ではなく、短軸方向に平行になるようなキズが目立ちにくくなります。そうは言いましても手術の必要性から長軸方向に平行になることはよくあります。その場合でも関節の伸側のキズはあまり問題にはなりません。
肥厚性瘢痕を起こさない縫い方
真皮縫合という特殊な縫合法を行います。これはキズの内側からキズの両側の真皮に糸をかけ手結ぶことによって、真皮が引っ張られル事により、キズ自体にかかる力を軽減しようとするものです。真皮縫合を終えた直後は程度の差はありますがキズ自体は周辺の皮膚よりも盛り上がります。この盛り上がりは時間とともに平坦化します。また、真皮にかけた糸も次第に吸収されます。
この真皮縫合の技術は、形成外科の一つの特徴と言えるでしょう。
次回はもう少し具体的に見てゆきます。