手術手技:縫う


あらゆる外科手術で必要とされる手術操作ですが形成外科、手外科では特に気を遣います。

先ず「縫う」ための材料ですが、吸収性あるいは非吸収性の糸を使います。以前は吸収性の糸としてカットグートが有名でしたが最近ではあまり使われないようです。その代わり、合成線維で吸収性のものが多く提供されておりそちらを使います。これら合成の吸収性糸は製品によって吸収されるまでの時間が異なりますので、手術操作ごとに使い分けています。形成外科領域では真皮縫合という技術が極めて重要ですが、その場合にも合成モノフィラメントの吸収糸を用います。

一方、非吸収性の糸ですが、絹糸が代表格かも知れません。ただし、絹糸は現在ではあまり使いません。こちらも合成線維のものが主流です。なんと言っても多用されるのはナイロン糸です。そのほかにもポリプロピレン糸も多用されます。太さも様々で、シャープペンの芯くらいのものから、髪の毛よりも細いものまで様々で、用途に応じて使い分けます。中でもマイクロサージャリーに用いられる糸は虫眼鏡でないとほとんど見えないものもあります。

次に縫う対象ですが、外科においては本当に様々なものを縫います。形成外科と手外科に限定した場合、以下のようなものが挙げられます。
皮膚縫合(外縫い、真皮縫合)粘膜縫合筋肉縫合、腱縫合、靱帯縫合血管縫合神経縫合

皮膚縫合(外縫い、真皮縫合)

皮膚の縫い方には大きく分けると皮膚の外側から縫い、糸が皮膚の外に露出するため、一定期間後に抜糸をしなければならないと外縫いと、皮膚の中に埋没させる縫い方で、キズの減張を目的とした真皮縫合の二つがあります。

真皮縫合

皮膚の縫合法の一つです。一般に皮膚の縫合は、キズに垂直に表に糸が出るように行いますが、この真皮縫合では、糸は真皮にかかり、結び目も表に出さず、皮下で糸を結びます。これは、真皮に糸をかけることによってキズにかかる力をやわらげ、キズが治った後の瘢痕が広がろうとする力に拮抗させることによって、瘢痕の幅を出来るだけ細くすることを目的としています。真皮縫合では合成のモノフィラメント吸収糸が使われ、やや盛り上がるように縫いますが、次第に平らになってきます。一般に、キズは最初のうちは固く赤みを帯びていますが、安定化するに従って白く柔らかくなってきます。ここ迄の期間はかなり個人差やキズの場所にもよりますが、半年から1年を見ていただければよいのではないかと思います。

外縫い

皮膚の外側を縫うことを指し、主にナイロン糸が使われます。このナイロン糸は絹糸などに比べると組織反応が少なくキズが奇麗になりやすいという利点があります。また、糸は必要とされる張力を保てる最低限の太さの物を使い、丁寧に縫うことによって跡が出来るだけつかないよう気をつけます。真皮縫合がキチット行われていれば、外縫いには力をかける必要はなく、キズの端を細いナイロンの糸で精密に合わせるために行われます。

粘膜縫合

形成外科領域ではこの粘膜縫合は主に口の中を縫うときに行います。この場合主に柔らかい吸収性の糸を使い、舌への刺激がないようにします。

筋肉縫合

裂けた筋肉を縫い合わせますが、筋肉自体には糸が掛かりにくく裂けやすいため特殊な縫合方法を行います。