捻挫・亜脱臼・脱臼の治療
いずれも関節への過度の外力が及んだ結果生じます。関節は関節面を作る軟骨が相対していますが、その位置関係を維持しているのが靭帯と呼ばれる組織です。この靭帯という組織は極めて強く扉の蝶番のように関節を支えています。さらに関節はその靭帯と一体になって関節を包む関節包という袋状の組織によって包まれています。関節包の内側は滑膜という組織に覆われ、そこからヌルヌルとした関節液が分泌され、潤滑油としての働きをしています。
捻挫・亜脱臼・脱臼は、いずれも関節に許容範囲を超えた力が加わった結果、関節包や靭帯に損傷が起こったことを意味します。そして、の三つの呼び名の違いは、力が加わった後の関節の状態の違いによります。
まず、「脱臼」とは、力が加わり靭帯や関節包の損傷が起こった結果、関節面が接触を失い、いわゆる外れてしまった状態を指します。
また「亜脱臼」では関節が外れてはいるものの、一部接触を保っています。
一方「捻挫」では力が加わり関節包や靭帯に損傷が及んではいますが、関節面は正常な接触を保っています。従って、これらの三種類は関節にかかった力による関節包や靭帯の損傷の程度をある程度反映していると言えましょう。
とはいえ、完全に脱臼してしまった関節がもし整復された場合、レントゲン上は関節面が合っている訳ですから捻挫に見えますが、実際にはかなりの損傷が起こっていることになります。従って、靭帯の損傷の程度を把握するためにはただ単純にレントゲンを撮るだけではなく、普通は曲がらない方向に力を加えて撮影することにより、関節の不安定性を把握する必要があります。
靱帯縫合
靱帯の損傷は多くの場合外傷で起こり、捻挫・亜脱臼・脱臼では程度の差こそあれ靭帯の損傷が起こっています。一般に、手指の靭帯損傷としては側副靭帯損傷 と呼ばれる、指を横方法に曲げた結果起こる損傷と、掌側板断裂 と言われる指が反対側に曲がった損傷があります。
その損傷が保存的療法で治らないと判断された場合、手術を行うことになります。靱帯というのは極めて強い構造物ですので、切れる場合は靱帯自体が切れると言うよりも、靱帯と骨との付着部が外れることの方が多いようです。 従いまして靱帯縫合といわれるものの多くは、その骨との付着部を修復することになります。現在ではこの骨との付着部の修復のために作られた骨アンカーという骨に埋め込む金属を用いて骨と靱帯との逢着を行います。
一方、靱帯が単純な縫合では修復できないほど損傷されてしまった場合は靱帯の再建を行います。その場合は、腱を再建材料として用います。手外科領域では前腕の屈側にある長掌筋という小さな筋肉から伸びる腱を採取して靱帯の再建材料とします。この長掌筋腱は極めて便利な再建材料であり、靱帯の再建を始め腱移植においても活用されます。
靱帯の再建
切れてしまった靱帯を単純に縫合できない場合、腱を移植することによって靱帯を再建することは先述しました。さらに靱帯の再建方法としては、伸びてしまった靱帯を、付近の腱を上手に利用することによって補強して再建する場合があげられます。
たとえば、母指CM関節症の手術で、手首を曲げるための腱の一部を、骨への付着部をそのままにしながら親指の基部の骨に固定して新しい靱帯の代わりに使う手術などがあり、手の外科の手術では応用範囲の広い手技と言えましょう。
開放性脱臼
脱臼を起こした関節を覆う皮膚が外傷によって破れてしまい、関節面が外気と通じている状態を指します。同じように骨折部を覆う皮膚が破れて外気と通じている場合を開放骨折と言います。
開放性脱臼を起こす場合はかなりの強い外力やねじれの力が加わった場合に起こり、軍手をしながら回転工具に巻き込まれた時などに起こります。このような場合、損傷される組織は靱帯だけにとどまらず血管や神経さらには腱組織まで及ぶ事があり、より高度になると指は切断されてしまいます。治療は徹底的な洗浄と丁寧な修復によります。
PIP関節側副靭帯損
PIP関節というのは指の爪側から数えて二番目の関節で、日常の診療で目にする事が多い疾患です。いわゆる突き指などで強い外力が指の側方方向にかかった場合に起こります。指の関節は側副靭帯と呼ばれる強力な蝶番の働きをする組織によって支えられており、この靱帯は関節全体を包む関節包と呼ばれる組織と一体になっております。この靱帯に横からの強い外力がかかった場合、靱帯の損傷が起こります。その損傷が部分的である場合は保存的に、靱帯の完全断裂が疑われる場合は手術によって靱帯の縫合を行います。
靱帯の断裂の程度を診断するためには力がかかったのと同じ方向に力を加えた状態でレントゲン撮影を行います。そのとき指の曲がりが、およそ20°を超えている場合は完全断裂の可能性が高いと判断いたします。
PIP関節掌側板損傷
側副靭帯損傷が指の横方向から力が加わった事による損傷であるのに対して、この掌側板損傷は指を強制的に伸ばされ過ぎたときに起こります。この掌側板というのは指の関節の腹側についていて、指関節が伸びすぎないように作用しています。
掌側板の損傷はそれが付着している部分の剥離骨折として現れますので、レントゲン撮影は必須になります。レントゲンの結果小さな剥離骨折があり掌側板の損傷が疑われた場合、関節が安定していれば一時的に固定した後に早期に運動を開始します。受傷から日が経っており、痛みや不安定性が残っていれば手術を考慮します。
母指MP関節尺側側副靭帯損傷
母指の付け根で、先から数えて二番目の関節の、人差し指に近い側の側副靭帯の損傷を意味します。これは母指に対して外側に向かう力が強くかかったときに生じます。この場合も横方向に力を加えた状態でのレントゲン撮影が必要になります。
靱帯の完全な断裂が疑われる場合、手術によって靱帯の縫合を行う必要があります。また、保存的治療を行ったにもかかわらず痛みがあり安定性が悪い場合は靱帯の再建手術の適応になります。
母指MP関節橈側側副靭帯損傷
母指MP関節尺側側副靭帯損傷とは逆に、親指の付け根で先から数えて二番目の関節の、人差し指と反対側の側副靭帯の損傷を意味します。これは母指が背中側に強くひねられた時などに起こります。治療方法の選択は尺側側副靭帯損傷の場合と似ています。
示指MP関節ロッキング
人差し指のちょうど拳骨部分、つまり中手骨の骨頭の、手の平側に張り出した膨らみに側副靭帯の一部が引っかかった状態です。やや曲がった位置で伸ばす事が出来なくなってしまいます。ロッキングには引っ掛かりが全く外れなくなってしまう場合と、習慣性に繰り返す場合があります。徒手整復が無効な場合や、習慣性の場合は手術が考慮されます。手術は関節を開けて引っ掛かりの原因となっている骨の出っ張りを削ります。