手指の爪のトラブルの治療
手の爪に関する疾患は色々あります。
爪郭肉芽腫
爪の周りの皮膚と爪の間に生じる淡紅色から鮮赤色の肉の盛り上がりで、痛みがあります。これは爪の甘皮を処理した後などに小さなキズが出来、そこに爪の刺激が加わって生じます。治療法は局所麻酔をかけてから、爪の一部を数ミリの幅でスリット状に除去します。これによって治癒しますが、除去した部分が治るまでに約2週間かかりますのでその間はキズを清潔にし、軟膏療法を行う必要があります。
ガングリオン
手の領域でのガングリオンの好発部位は指背と手関節部です。ここでは特に指に出来たガングリオンについて説明します。指に出来るガングリオンの大部分は爪から一番近くの関節、いわゆる「第一関節」から発生します。この第一関節部は変形性関節症の起こりやすい場所でもあり、関節症の結果変形が高度になって骨が突出した状態をへバーデン結節と呼びます。
指の第一関節に出来たガングリオンは時々へバーデン結節と間違われる事がありますが、ガングリオンの場合は柔らかく、大きくなると透明感があるために、区別する事が可能です。最良の治療方法は、手術による摘出です。これはガングリオンが関節を包む関節包と呼ばれる場所から発生し、膨らんでいる中身は関節液と同じものであるため、つぶしたり、注射で引いたりしてもすぐに再発してしまいます。ガングリオンに細菌が入るような事が起こりますと、当然つながっている関節自体にもばい菌が侵入し、関節炎を起こしかねません。
手術による摘出の際はガングリオンだけではなく、その発生母地となっている部分の関節包ごと切除し、同時に変形性関節症によって変形を起こし骨棘と呼ばれる骨の突出部分も削り整える必要があります。
爪下外骨腫
外骨種というのは簡単に言いますと骨の表面が突出する良性腫瘍です。外骨腫自体は色々な場所に発生しますが、これが爪の下に生じた場合は爪の変形となって気がつかれます。治療方法は手術によります。
グロムス腫瘍
グロムス腫瘍の特徴は痛みです。そして、発生場所の多くは爪の下で、指の腹側に出来る事もあります。爪の下や指腹の深い部分に、少し触っただけでも痛い腫瘍が出来ていたら、まずは、グロムス腫瘍を疑ってみてもいいと思います。
この痛みは特に冷たいときに強まる傾向がありますので、冬場や水仕事の際に痛む事が多いようです。爪の下に出来た場合は、やや紫がかったピンク色の腫瘍を爪の表面から透見出来る場合がありますが、小さい場合や指腹に出来た場合は確認する事が困難な場合も珍しくはありません。痛み等の症状があり、肉眼で腫瘍の確認が出来ない場合はMRIを撮影して診断する事もあります。治療法は手術によって摘出する以外にありません。
爪の下のわずかな青みが見えることがありますが、ほとんど分からないことも多いです。
グロムス腫瘍の詳細
「爪に物が当たると激痛が走る。冷たい水に触ると同じように痛む。」このような状態が長年続き悩んでおられる方も多いと思います。
そのような方は、先ず爪の甲をよく見てください。爪の甲は一般的には乳白色からピンク色をしていますが、その中に一点青みがかった場所が見える事があります。この場合はグロムス腫瘍が疑われます。
グロムス腫瘍とは、グロムス器官と呼ばれる血管の一種であり、血流を調節している組織から発生する良性腫瘍です。このグロムス器官は主に手足の指にあることが多く、血流の調節を行うことによって皮膚温の調節を行っています。
話は変わりますが、ここで血流の役目について考えてみたいと思います。先ず思い浮かぶのは呼吸によって取り込まれた酸素を体の隅々まで運び、代謝によって生じた二酸化炭素を集めて肺から排泄することでしょう。これは欠かすことの出来ない重要な役目ですが、もう一つ重要なことに体温の調節機能があります。
たとえば手指を考えてみます。各々の指には大人の場合2mm程の動脈が2本あり、かなりの血流が供給されていますが、指自体には最も酸素を消費する器官である筋肉がありませんので(手掌にはあります)酸素の消費量は多くありません。ではその血流は何のためにあるかというとほとんどが指の温度を保つためにあります。そして、その血流を血管のネットワークの末梢の部分で調整しているのがグロムス器官です。
話を戻します。臨床症状でグロムス腫瘍が疑われた場合、当院では全例MRIの撮影をお願いしております。このMRIによってグロムス腫瘍が確認されて初めて手術と言うことになります。症状はまさににグロムスのようだがMRIを撮影してみると何も無いと言うことが稀にありますので、闇雲に手術をするのは避けるべきだと考えています。
MRIも撮り、グロムス腫瘍が強く疑われるとなった場合、手術を行います。
当院での手術はすべて日帰りの外来手術です。予定時刻の15分ほど前に来院していただき、手術室で手術を行い、お帰りいただくまでに1時間かかりません。
麻酔は局所のブロック注射と言う方法を用いますので、腫瘍のある指だけが無痛になります。術後患指にはしっかりと包帯を巻きますが、他の指は動かせますので日常生活にそれほど障害になることは無いと思います。
この手術の一つの特徴に術後の疼痛があり、長い場合1ヶ月以上続くこともあります。
また、術後爪の変形が残ってしまうこともあります。
当院ではできる限り術後の変形が起こらないように心がけてはいますが、場所によってはどうしても避けられない場合があります。
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ひょう疽
指先に起こる細菌感染の主なものがひょう疽です。ひょう疽にかかると指の腹側が発赤し腫れ上がり、激痛を起こします。元々指腹部の脂肪組織は、物をつまむときの安定性を高めるために線維性の隔壁で仕切られています。そのためそこに感染が起きると内圧の上昇によって、強い痛みが起こります。この状態を治療せずに放っておくと感染が指腹だけでなく腱や関節に至り、化膿性腱鞘炎・化膿性関節炎などの重症疾患に至る危険性があります。
治療は炎症が激しい場合は外科的に切開と排膿が必要です。炎症がさほどではなく、すぐに排膿される程ではない場合はまず抗生物質の投与によって治療を行います。いずれにしましても早い段階にキチットした治療を行う事が重要になってまいります。
爪周囲炎
上記の瘭疽が指腹に起こった感染である一方,こちらの爪周囲炎は爪の周りの皮膚に細菌感染が起こっていることを指します。この場合も治療は抗生物質と外科的排膿ですが、局所麻酔下に爪の一部を抜去する処置が必要になる事が多いです。