ばね指

ばね指ばね指の多くは屈曲時の痛み、あるいは指を曲げた後に伸びない「引っかかり」として現れることが多いようです。症状は特に朝起きがけに著明に見られることがあり、時間がたつにつれて次第に動かすことが出来るようになります。「引っかかった」指を伸ばすときがあたかもバネがはじけるさまに似ることから、「ばね指」と言われます一般的には親指、中指、薬指に多いようですがどの指にも起こります。このばね指を長く放置しておくと関節の動かしにくさが次第に固定化されて、いわゆる関節拘縮という状態を起こすことがあります。この関節拘縮は指の先端から数えて2番目の関節(PIP関節)に起こることが多く、関節が曲がってしまって伸びなくなってしまいます。一度関節拘縮を起こすとその治療は大変難しいため、そうなる前に治療することが望まれます。

ばね指の原因について

最初の図の2本は親指を、次の2本の図は親指以外を表しています。指を曲げる原動力は前腕の筋肉にありますが、その力を指に伝えているのが腱と呼ばれる丈夫な組織です。特に指を曲げるための腱は太く丈夫で、親指に1本、他の指に2本ずつあります。これらの腱は関節を挟んだ指の骨にそれぞれ付着していますが、筋肉の収縮力を指の屈曲力に変えるために、関節を挟んだそれぞれの指の骨に丈夫なトンネル構造があり、その中を腱が通ったあとに骨に付着しています。このトンネルがないと腱はちょうど弓の弦のようになり、力を正しく伝えることが出来なくなってしまいます。図の薄い紫で示したところはこの頑丈なトンネル構造を示しており、靱帯性腱鞘と呼ばれています。一方このトンネルを通る腱ですが、そのままではトンネルとの摩擦が大きすぎてしまします。そこでトンネルとの間にヌルヌルの液を含む薄い袋状の構造物を介することによって、腱とトンネルの摩擦を防いでいます。図では薄い青に着色した部分がそれで、滑膜性腱鞘とよばれています。
この滑膜性腱鞘に何らかの原因で炎症(図の赤色の部分)が起きて、腫れが起こると腱の動きが悪くなります。さらに悪化すると炎症は靱帯性腱鞘にまで及び靱帯が厚くなり、さらに腫れた滑膜性腱鞘が器質化してさらに厚くなり・・・と悪循環に陥ります。ばね指の特有な症状はこのような原因によって起こります。

ばね指の治療法

ばね指の治療は炎症が軽い場合は、急性期の安静とその後のゆっくりしたストレッチングで症状が軽快することがあります。症状が持続する場合は、局所麻酔剤と副腎皮質ホルモン剤の混合液を腱鞘内に注射する場合があります。

副腎皮質ホルモンは炎症を沈静化し、局所麻酔剤は痛みを軽減しますので、注射直後から症状が軽くなることを実感できる場合が多いようです。しかし、症状が重い場合はその効果も長くは続かないため、注射を繰り返すことも多々あります。一方、この副腎皮質ホルモンは単に炎症を抑えるだけではなく、組織の萎縮を来すことも知られています。端的に言えば、注射を繰り返すと腱そのものが萎縮、すなわち細くなってしまう危険性があることを念頭に置かねばなりません。数回の注射にもかかわらず症状が再発する場合は手術を考慮しなければなりません。というよりも、明らかなばね指で症状が強い場合は最初から手術という選択肢を念頭に置く必要があると思います。

手術について

ばね指 あらかじめ局所の麻酔を行い完全な無痛が得られた段階で、ばね指を起こしている腱鞘の直上の皮膚を約1cmの斜めに切ります。斜めに切る理由は、もし病巣が指先の方まで及んでいることがわかった場合にも、ジグザグにキズを広げて対処することが出来るからです。
ばね指 この斜めの切開線からキズを分けて腱鞘の直上にまで達します。この時丁寧な操作によって原因となっている腱鞘(A1腱鞘と呼ばれています)そのものを露出し、直に観察することが重要です。直視することにより、腱鞘の状態を把握できるだけでなく、その両わきにある動脈や神経を傷つけることが無くなります。次に、確認した腱鞘を先ず指先の方に向かって切り開きます。この時さらに指先の方にあるもう一つの腱鞘であるA2腱鞘は傷つけません。次にA1腱鞘の中枢を観察し、手掌腱膜と呼ばれる組織によって構成される隔壁も切り開きます。
ばね指 最後にキズから腱を引き出して指の動きを確認します。
ばね指 キズは細い糸で丁寧に縫合します。この糸はおよそ1週間から10日で抜糸します。

 

ばね指 腱鞘切開を行うときに注意深く観察すると、靱帯性腱鞘の肥厚に加えて、滑膜性の腱鞘の肥厚や粘液嚢腫を合併していることもあります。

術後について

治療についてみて参りましたが、術後のリハビリは欠かせません。

手術が成功した場合でも、指の曲がりや動かしたときの痛みがしばらく続く事があります。詳細に検討しますと術前の痛みとは異なっているのですが、術後にちっとも痛みが取れないと思われる方も多いようです。

これは、簡単に言いますと腱鞘炎の悪影響が患部以外に及んでおり、手術で患部が治った後もその悪影響が残存していると考えていただければよいと思います。これを治すには、先ほど書きましたリハビリが欠かせません。

もちろんこのリハビリはご自分でやっていただく事が基本になりますが、そのやり方についてはご指導いたします。