皮膚のできもの、「膨らんでいたら?」

「膨らんでいると」いうのは腫瘍の大きな特徴の一つです。ここでは皮膚の下に出来るものについて見ていきます。この場合も良性から悪性のものまで極めて多くの種類があり、摘出するまで診断がつかないことも稀ではありません。ただ一般的に言えることは、悪性の場合は大きくなるスピードが早く、反対に良性のものは遅いこと。また悪性のものは固いことが多く、初診時に既に大きくなっているものが多い、というのも一つの特徴と言えるでしょう。

いずれにしましても、皮下の腫瘍が気になったらまずは診察においでいただくことが一番でしょう。そして拝見させていただいた上で治療方針を決めさせていただきます。
以下は、皮膚の下に出来るごく一般的な良性腫瘍の一部です。

粉瘤(アテローム)

粉瘤は皮膚に癒着し、その中心に小さな点状のへこみがある比較的柔らかい腫瘍で、皮膚の移動とともに動きます。皮膚のあらゆる場所に出来ますが、耳たぶにコロコロとした粉瘤を触れる方は結構多いと思います。時には粉瘤の中心の穴から悪臭のある液が漏れることもあります。また、この粉瘤に細菌感染が起こると感染性粉瘤となり赤く腫れ上がって痛みを伴います。

そもそも粉瘤は、表皮と呼ばれる皮膚の最も表面の層が、何らかの理由で真皮部分に入り込みそれが袋状になって内部に老廃物を溜め込んだ状態を指します。表皮細胞というのは常に新陳代謝を行っていますので、それが袋状になると内側に新陳代謝の結果の老廃物が溜まってしまうことによります。そしてこの新陳代謝が進むに従って腫瘍は大きさを増してゆきます。

治療方法ですが、感染性粉瘤では、軽症では抗生物質の服用だけで炎症が収まる場合がありますが、ひどくなって来るとそれだけでは治りません。この場合は局所麻酔下に腫瘍を切開して中の膿を出す必要があります。ただ一回の切開排膿だけでは治癒せず、しばらくの間は傷口からの排膿が続きますので、毎日のキズの手当が必要になります。その後、排膿・炎症ともに次第に沈静化し最終的には傷口は自然にふさがります。

ただし一旦治ったと思っても先述しました表皮の袋が残っていますので、その袋を取り除かないと完治せず、腫瘍は再発してきます。従って炎症がおさまって赤みが引き、皮膚の下に再びころころとした腫瘍が触れるようになったら摘出することをお勧めします。

炎症の起こっていない粉瘤を摘出する場合は、小さな点状のへこみの周辺の皮膚と癒着した部分を含めて、紡錘形切除をし、腫瘍の本体である袋を周辺の組織から剥離しながら取り出します。

粉瘤の詳細について

1)アテロームとはどうなっているの?

粉瘤は別名「表皮嚢腫」とも呼ばれています。表皮というのは皮膚の外側にある器官で、表皮細胞が煉瓦のように積み重なって出来ています。そこでは、盛んに新陳代謝が行われ、古くなった表皮細胞は最後には垢となって捨てられます。

 粉瘤一方、嚢腫というのは袋のことを指します。そして、先ほどのくぼみはちょうど袋の口に相当します。つまり、「表皮嚢腫」とは簡単に言えば表皮細胞で出来た袋状の腫瘍です。そして、先ほどの表皮細胞で出来ているために新陳代謝によって垢が生じます。この垢が袋の内側にたまることによって、腫瘍はだんだんと大きくなって参ります。

2)感染性粉瘤

この粉瘤に細菌感染が起こった状態が、感染性粉瘤と言われるものです。赤くはれ上がって痛みを伴います。皆さんよく「おできが出来た」と仰って来院されることが多いようです。
この、赤くなり方には程度があります。最初のうちは何となく赤みを帯び、今まで痛くもかゆくもなかった粉瘤に痛みを覚えます。
その後、炎症が進みますと真っ赤にはれ上がり強い痛みを伴うようになります。

3)感染性粉瘤の治療

症状が軽い場合は、抗生物質の内服で対処します。これだけで炎症が消退することもあります。一方、症状が重い場合や抗生物質でも炎症が進行してしまった場合は「切開排膿」と言って、腫れた部分にメスを入れて中の膿を出す必要があります。膿を出してしまうと症状は急速に落ち着きますが、数日間は膿や浸出液の排泄がありますのでガーゼ交換が必要です。

当院ではこの期間、クリニックにご来院いただけない日は、自宅での処置をお願いしています。

自宅での処置

当ててあるガーゼを剥がしたあと、シャワー等でのキズを軽く洗浄してください。洗浄後に抗生物質入りのクリームを切開部に塗り、ガーゼを当て、絆創膏で押さえます。
このような処置を繰り返していますと、1,2週間でキズがふさがり治ります。

このとき、キズはふさがっても袋が残ります。つまり、排膿はあくまでも中身だけが出るのであり、そのまわりの表皮細胞の嚢は残ってしまいます。

切開排膿の直後はこの袋は小さくなっていますが、前にも書きましたとおり表皮細胞による袋であるためその内側に垢のようなものをため込んで、だんだん大きくなってゆきます。そして最終的にはまた元のような粉瘤が再生してしまいます。

つまり、切開排膿の後、適当な時期に粉瘤の摘出術を行わないと治ったことにはなりません。

4)手術の時期

感染粉瘤以上のことを図にまとめてみました。  感染が起きて膨らみがピークになったところで切開排膿を行います。

 

 

残粉瘤排膿が進むにつれてだんだんと炎症が治まってきます。

 

 

 

再粉瘤完全に排膿が終わり、炎症もおさまり、キズがふさがりますが、この時点ではまだキズのまわりの固さが残っています。この固さが取れた頃が粉瘤摘出手術のやり頃と言うことになります。

 

この頃になりますと、皮膚は元通りの柔らかさに戻り、切開部分の固さも取れ、皮下にころころとした粉瘤が触れるようになります。つまり根治的な手術はこのような状態になるまで待ってから行うことが望ましいのです。

5)手術方法

当院ではきちっと切開して腫瘍を全摘出後、しっかり止血処置を行ったのちに、吸収糸による真皮縫合を行った後に表面縫合を行います。小さい穴からくりぬいて袋を取り出す方法もありますが、血腫等の術後合併症が増えると考え行っておりません。

6)まとめ

  1. 赤くなってない(炎症を起こしていない)粉瘤は、全摘出手術をします。
  2. 赤くなった粉瘤(炎症を起こした粉瘤)は、軽度の場合、抗生剤投与で数日様子を見ます。 この状態では全摘手術は行いません。
  3. さらに赤みが強く腫れ上がってきた場合は、切開排膿します。この場合あくまでも袋の中身(膿)を出すためのものです。ですから、最終的に袋は残ります。
  4. 切開排膿後、しばらくして全体が落ち着いて柔らかくなり、ころころとした粉瘤がまた触れる頃に、今度は全摘手術を行います。

7)症例

代表的な良性腫瘍です

粉瘤の治療法

粉瘤には2種類の治療法があります。一つは通常の粉瘤で、痛くもかゆくもありません。
もう一つは感染性粉瘤で、その名の通り細菌感染が起こっている粉瘤で、赤く腫れ痛みを伴います。

(1) 通常の粉瘤の場合:紡錘形の皮膚と一緒に、腫瘍を切除します。

インターネット広告の規制のため、写真画像についてはイラストにて表現しています。

(2) 感染性粉瘤の場合:以下の写真のように赤く腫れて痛みをともないます。

抗生物質の内服や切開をして膿を出します。

感染が治まってから改めて摘出手術をします。

 

 

石灰化上皮腫

皮膚の直下に出来るやや固く、2~3cm程度の大きさの腫瘍です。その名の通り腫瘍内部に石灰化が見られ、皮膚表面からも石灰化による凹凸と不規則な形を触れることが出来ます。子供の顔や首あるいは腕に出来ることが多く、治療は摘出するしかありません。

脂肪腫

脂肪腫とは文字通り脂肪の一部が腫瘍性に増殖したものを指し、皮膚の下に柔らかい固まりとして触れることができ、大きさは様々です。この柔らかいというのは脂肪腫の大きな特徴で、摘出してみると見かけはまさに脂肪そのものですが、脂肪小葉の大きさが、正常の脂肪組織に比べてかなり大きいことが特徴的です。

この脂肪腫は普通5cm前後のことが多いのですが、中には10cm、20cm以上のものもあります。このような大きい脂肪腫はその一部が悪性になっている場合があり要注意ですので、あらかじめCTなどで、脂肪腫の状態を調べておくことが必要になります。
治療方法は先述しました通り手術で摘出する事になりますが、小さい場合は10cm以下の小さいものなら局所麻酔での摘出が可能です。一方、大きいものでは全身麻酔が必要になることがあり、その場合は総合病院を御紹介いたします。

手術前にCTを撮って、腫瘍を確認します。

摘出後は、血が溜まらないように細い管を数日留置します。

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ガングリオン

手首や指先の関節の上が好発部位です。皮膚の表面からはツルッとした弾力のある風船のようなできものが触れ、大きくなって皮膚が薄くなった場合、光が透見できることがあります。固さは弾力のあるものから固いものまで様々ですが、関節の動きによって大きさや固さが変わることがあります。

例えば手首の背中側に生じた場合、手首を手の平側に曲げると固く飛び出し、逆に手首を背側に曲げると柔らかく目立たなくなることがあります。これはガングリオンが透明な風船状の膜の中に、粘液質の関節液が溜まって出来ているからです。つまり、このガングリオンは関節を包む関節包という部分から生じており、例えて言いますと、膨らんだ風船の口が関節包に付着し関節内に口が開いて交通している状態と考えていただければいいと思います。

そのため治療方法は、腫瘍の膨らんだところだけではなく、関節に付着したところまでを一回に摘出しないと再発を防ぐことは出来ません。また、このように丁寧に摘出できた場合も、再発の可能性が決してゼロになる訳ではないことも覚えておいていただく必要があると思います。

ガングリオン(手・手関節)

粘液を貯めた風船のような腫瘍で、関節の部分に出来ることが多いです。

ガングリオン(指)

 

ガングリオンは再発しやすい腫瘍です。再発率を極力少なくするための工夫が必要です。
手首のガングリオンでは手術前にMRIを撮って深さを確認します。

 

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指のガングリオンは見かけより広く根があります。
そのため、手術では大きめの切開をします。
術後はそれほど目立ちません。

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腱巨細胞腫

一見ガングリオンに似ていますが、弾力性はガングリオンより少ないです。また、ガングリオンは関節の角度によって弾力性が変わる事がありますが、巨細胞腫はそのような事はありません。

ガングリオンが簡単に言えば風船に粘液をつめたような構造になっているのに反し腱巨細胞腫は中身が詰まっているつまり充実性の腫瘤です。そのため超音波エコーではガングリオンとは異なり腫瘍内にエコーを反射する白い部分が見えます。最終的な診断は摘出して病理検査を待たねばなりません。

この他に皮膚の下に出来て、ふくらみを触れるものとして、骨から出来るものも考えなければなりません。

外骨腫

骨の表面から外側に骨が膨らんでしまった状態で、おでこに出来た場合などでは瘤のように外側から触知可能です。その他指などに出来た場合はその位置に応じて、変形が生じます。治療は出っ張った部分をノミで削ります。

内軟骨腫

外骨腫が骨の表面にから起こるのに反し、こちらの内軟骨種と呼ばれる腫瘍は骨の内側、つまり骨髄の部分に発生する良性腫瘍です。この腫瘍によって骨の皮質と呼ばれる、骨の強度をになう部分が薄くなり、その結果骨は骨折しやすくなります。ですから、病的な骨折で発見されることが多いです。 治療は骨に穴をあけ、髄質の部分の腫瘍を掻き出し、その結果生じた空洞に骨を移植します。