腱損傷の治療(腱縫合)

手外科において腱の縫合は最も気を使う手技の一つで、極めて丁寧に行われます。

腱には指や手首を曲げるための屈筋腱と、伸ばすための伸筋腱があります。指の場合、屈筋腱は伸筋腱に比べてかなり太く親指に1本、他の指に2本ずつあります。この太さの違いは指を曲げる力が伸ばす力に比べて格段に強いことを反映しています。この他に、手首の曲げ伸ばしを行うための伸筋腱と屈筋腱があり、それぞれが微妙なバランスを取りながら運動を構成しています。

一方、伸筋腱は屈筋腱に比べると細く平たく、さらに指背部分ではきわめて複雑な構造をしており、手の中にある小さい筋肉の影響を受けながら精密な運動を行っています。

このような複雑で、精緻な構造を持った腱ですので、損傷を受けた場合の修復も容易ではありません。切れてしまった腱をつなげるためには特殊な縫合法で行います。これは腱の血流を保ったまま、可能な限り抗張力を高めようとするものであり、様々な方法が開発されています。そうは言いましても、縫っただけですぐに強度が得られる訳ではありません。ある程度自由に動かすことが出来るようになるまではおよそ3週間かかりますし、完全な強度に達するまでには3ヶ月ほどかかります。従って、腱の縫合では、手術もさることながら後療法がとても重要な意味を持ってきます。

屈筋腱縫合

先述しました通り、屈筋腱は伸筋腱よりも太く、内部に血管がありますので、腱の血行を保ちながら、縫合の強度が強くなるように工夫します。そのための方法として多くの方法が開発されてきました。古くはDr. BunnelやDr. Kesslerによる方法が世界的に有名です。一方、広島大学名誉教授の津下健哉先生の開発されたループ針を用いる津下式縫合法も多用されています。

腱の治療で重要なことは、これは屈筋腱伸筋腱に共通していますが腱が治るときに周辺の組織と一緒に治ってしまうこと、つまり癒着が起こりやすいことです。癒着が起こると、腱は治っても指は動かないという状態になってしまいます。それを避けるため、術後の早期に特殊な方法で指を動かして癒着を防ぎます。その方法の一つがKleinert法と呼ばれる早期運動療法があります。これはゴムの力を利用することによって腱の縫合部に過剰な力をかけずに腱を滑動させ癒着を最小限にすることを目的としております。

このような精密、かつきめ細かい治療にも関わらず、結果的に癒着が起こってしまうことも珍しくありません。その場合は、癒着を剥がす腱剥離術という手術を行うことがあります。

伸筋腱縫合

伸筋腱は場所によっては極めて薄く裂けやすいため、縫合法の工夫が必要です。さらに指の伸展は、一本の腱の作用だけによっているのではなく、数本の腱による極めて複雑で微妙なバランスによって成り立っています。そのため伸筋腱縫合を行うときにはそのバランスまで考慮する必要があります。

基本的に屈筋腱では多少の差こそあれ,切れた場所による構造の変化は大きくありませんが、伸筋腱は手背や指背の場所によって構造がすべて異なっているため、その構造に応じた修復法を用います。

伸筋腱脱臼

手を握って拳骨を作ったときにものにあたる場所、即ち拳頭部分は中手骨頭を覆うように伸筋腱が存在しています。この中手骨頭は丸い形をしていますので、伸筋腱が正中からずれないよう両側から支えているバンド状の組織があり、矢状索と呼ばれています。この矢状索に損傷が起こりますと伸筋腱を正中位置に保持する事が出来なくなり、拳骨を作るときに伸筋腱が中手骨頭の横にズレ落ちてしまいます。この状態を伸筋腱脱臼と言います。治療は手術により矢状索の損傷部の縫合を行うか、伸筋腱の一部を用いて矢状索を再建する事によって行われます。